VRの話をすると、よく「没入感」という言葉が出てきます。
映像がきれい。音がリアル。視界が全部ふさがる。気づいたら現実の部屋を忘れている。
たしかに、それはVRの大きな魅力です。
でも、VRで本当に面白いのは、ただ見入ることだけではないと思います。
今回読んだRoad to VRの記事では、「Immersion」、つまり没入感よりも、「Embodiment」、身体ごとその世界にいる感覚が大事だ、という話がされています。
これは、このブログで追いかけたい体感デバイス、センサー、全身トラッキング、触覚グローブ、歩行デバイスの話にかなり近いです。
今回は、この記事をきっかけに、VRで「身体がそこにある」と感じるとはどういうことなのかを整理します。
没入感と身体性は少し違う
Road to VRの記事では、没入感と身体性を分けて考えています。
ざっくり言うと、没入感は「注意を奪われている状態」です。
映画でも、小説でも、ゲームでも、ものすごく集中しているときは没入しています。
でも、どれだけ映画に入り込んでも、自分が本当に映画の中に立っているとは思いません。
一方で、VRの身体性はもう少し違います。
自分の身体が、その仮想世界の中にあるように感じることです。
手を伸ばしたらそこに壁がある気がする。しゃがむと本当に隠れた気がする。足を動かすと、自分がその場所を移動している気がする。
この「身体が世界と関係している感じ」が、身体性です。
VRは最初から没入しやすい
VRは、ヘッドセットをかぶった時点でかなり強く注意を持っていきます。
視界を覆い、音も空間的に鳴り、現実の部屋は見えなくなります。
だから、没入感はある意味でVRが最初から得意なことです。
でも、それだけでは「身体ごとそこにいる」感じにはなりません。
見えている世界に、こちらの身体がどう関われるのか。
ここが大事です。
ただ眺めるVRと、身体で関わるVRは違います。
この違いを考えると、体感デバイスやセンサーがなぜ重要なのかが見えてきます。
身体性を作るのは「実際に身体を使うこと」
Road to VRの記事では、PSVR 2向けゲーム「Synapse」を例にしています。
Synapseでは、壁の裏に隠れるとき、ただスティックで横移動するだけではありません。
手で壁をつかみ、その壁を支点にして身体を出したり引いたりできます。
これが面白いところです。
壁がただの背景や障害物ではなく、自分の身体を動かすための「手がかり」になります。
手でつかんで、身体の位置を変える。
そうすると、脳はその壁を「自分の身体と関係のあるもの」として扱い始めます。
だから、ただ見えている壁よりも、少し本物っぽく感じるわけです。
身体は空間を覚えている
この記事では「proprioception」という言葉も出てきます。
日本語だと、固有受容感覚と呼ばれます。
簡単に言うと、自分の身体が今どこにあって、周りのものとどういう距離にあるかを感じる力です。
たとえば、目で見なくても自分の手がどのあたりにあるか、だいたいわかります。
机にぶつからないように身体をよけたり、狭い場所で肩をすぼめたりするのも、この感覚が関わっています。
VRで身体性を作るには、この感覚をうまく使う必要があります。
手を伸ばす。つかむ。引く。押す。しゃがむ。歩く。
こういう動きがVR内の世界と意味のある形でつながると、脳は仮想空間を「自分の身体がいる場所」として扱いやすくなります。
近くのものに触れると、世界が近づく
Road to VRの記事で特に大事だと思ったのは、近距離のインタラクションです。
腕の届く範囲にあるものをつかむ、押す、引く、差し込む。
こういう操作は、VRの身体性をかなり強めます。
なぜなら、現実の身体感覚とつながりやすいからです。
遠くの敵をボタンで撃つだけなら、身体感覚はそこまで強くありません。
でも、目の前の壁を手でつかんで身を隠すとか、近くの物をつかんで動かすとか、そういう操作は身体に近いです。
だから、体感デバイスや触覚デバイスとも相性が良いです。
手に振動が返る。腕の位置が反映される。身体の傾きがゲーム内に伝わる。
こういう要素が加わると、仮想世界はただの映像ではなく、身体で関われる場所に近づきます。
触覚グローブや歩行デバイスが必要になる理由
ここで、体感デバイスの話につながります。
触覚グローブは、手で触る感覚を少し足してくれます。
ハプティックベストは、身体に衝撃や接触の反応を返してくれます。
全身トラッキングは、自分の姿勢や動きをアバターに反映します。
歩行デバイスは、移動をスティック操作ではなく、足の動きに近づけます。
これらは全部、身体性を強めるための道具です。
VRを「見るもの」から「身体で入るもの」に近づけるための道具、と言ってもいいです。
もちろん、どのデバイスもまだ課題はあります。
価格、対応アプリ、設置場所、装着の手間、精度。
でも、目指している方向はかなりはっきりしています。
VRの中に、自分の身体をもっと連れていくことです。
ゲーム設計にも身体性が必要
ただし、デバイスだけあっても十分ではありません。
Road to VRの記事で面白いのは、Synapseの設計そのものが身体性を作っている点です。
壁をつかむ。壁を使ってリロードする。視線で対象を選び、手の動きで遠くの物を操作する。
こういう仕組みは、単なるハードウェアの話ではありません。
ゲーム側が、プレイヤーの身体をどう使わせるかを考えているから成立しています。
つまり、体感デバイスが普及するには、デバイスだけではなく、それを活かすソフトウェア設計も必要です。
これはかなり大事です。
すごいデバイスがあっても、対応ゲームが少なければ使われません。
逆に、身体を使うことが楽しくなるゲームが増えれば、体感デバイスの価値も伝わりやすくなります。
このブログで追いかけたいこと
この話は、このブログのテーマそのものです。
VRの世界に本当に行けるようにするには、映像だけでは足りません。
身体が必要です。
手で触る。足で歩く。身体を傾ける。姿勢が反映される。衝撃が返る。
そういう要素が少しずつ積み重なることで、VRは「見ている世界」から「自分がいる世界」に近づいていきます。
だから、このブログでは体感デバイスやセンサーを追いかけます。
新しい商品紹介だけではなく、それが身体性をどう変えるのか。
使いやすいのか。対応ソフトはあるのか。個人開発でも近づけるのか。
そういうところまで見ていきたいです。
まとめ
VRでは、没入感だけでなく、身体性がとても大事です。
没入感は、意識がその世界に向いている状態。
身体性は、自分の身体がその世界の中にあるように感じる状態です。
VRヘッドセットは没入感を作るのが得意です。
でも、身体性を作るには、手を動かす、物に触れる、歩く、姿勢を変えるといった身体の関与が必要になります。
だからこそ、触覚グローブ、全身トラッキング、ハプティックベスト、歩行デバイス、センサー技術が重要になります。
VRの未来は、ただ映像がきれいになるだけではありません。
身体ごとその世界に入れるようになること。
そこに、この分野の面白さがあると思います。
参考リンク
- [Road to VR: VR Design Unpacked: Why ‘Embodiment’ is More Important Than ‘Immersion’](https://roadtovr.com/synapse-embodiment-immersion-inside-xr-design/)