【2026年7月版】VRで物をつかんだら、手には何が返る? 触覚グローブ6種類を比べてみる

VRの中で、箱を持ち上げる。ドアノブを回す。やわらかい物を、そっとつまむ。

画面の中では手が動いていても、現実の手には何もありません。

そこで登場するのが、触覚グローブです。ただし、名前は同じでも、できることはずいぶん違います。

指の動きを読み取るグローブ。仮想の物をつかんだとき、指を止めるグローブ。指先へザラッとした表面を作るグローブ。温かさや冷たさまで加えるグローブもあります。

今回は、研究、DIY、市販の6系統を、「どれが一番すごい?」ではなく、VRの物をつかんだとき、手に何を返してくれるのかから見ていきましょう。

まず知っておきたい、四つの違い

「触覚グローブ」と聞くと、VRの物を本当に触れるようにしてくれる手袋を想像するかもしれません。

けれど、現実の手触りをそのまま全部作れるグローブは、まだ気軽な家庭用機器ではありません。今のグローブは、感じたいことを一つずつ足していく道具です。

手に返したいこと仕組みの呼び方たとえば、こんな感覚
指を動かしたことをVRへ伝える指トラッキング手を開く、指を曲げる
物の硬さや大きさを感じる力覚・把持抵抗箱を握ったところで指が止まる
触れた場所や細かな表面を感じる触覚・接触提示ボタンを押す、小さな凹凸に触る
温度の違いを感じる温冷覚提示冷たい金属、温かいマグカップ

この四つは、いつもセットではありません。

指を追跡できても、硬い物を握った抵抗は返らないことがあります。振動があっても、表面の細かな違いまでは分からないかもしれません。

だから、選ぶときは「どのグローブが高性能か」よりも、「私は何を手で感じてみたいのか」を先に考えると分かりやすいです。

6種類を、感じ方から並べてみる

今回の6種類は、同じ条件で実機比較したものではありません。研究プロトタイプ、DIYプロジェクト、業務向け市販品を、公開されている一次情報で並べたものです。

いちばん分かりやすい特徴手に返すものいまの段階
Grabity小さな指先装置で、重さや硬さを考える把持抵抗、重量感・慣性感の手がかり研究プロトタイプ
Fluid Reality指先に細かな圧力を並べる表面、角、細かな接触研究プロトタイプ
LucidGloves自分で組み立て、仕組みまで学べる指トラッキング、構成による力覚・振動DIY・オープンソース
HaptX Gloves G1手のひらと指の接触を多点で作る接触、把持抵抗業務・研究向け市販品
SenseGlove Nova 2指の抵抗と手のひらへの圧力を組み合わせる把持抵抗、掌接触、振動業務・研究向け市販品
TouchDIVER Pro温度も含め、手の感覚を重ねる力覚、質感、温冷業務・研究向け市販品

ここからは、「何が返るか」を一つずつ見ていきます。

重さや硬さは、どう作る?――Grabity

最初のGrabityは、手全体を包むグローブではありません。親指と人差し指へ付ける、小さな研究用の装置です。

仮想の物をつまんだとき、ブレーキが指の動きを止めます。これが、物の硬さや大きさの手がかりになります。

さらに、二つのアクチュエータが指先の皮膚をわずかに動かし、重力や慣性のような感覚を作ります。手の中に本当に重りを入れるのではなく、「下へ引かれるような手がかり」を加える考え方です。

Grabityは2017年に発表された研究プロトタイプです。今すぐ買って使う候補ではありません。でも、VRで重さを感じるには、大きなモーターで腕を引っぱらなくても、指先へ送る小さな合図が役に立つかもしれない。そんな発想を見せてくれます。※1

指先で、表面を感じる――Fluid Reality

金網、コーデュロイ、箱の角。

Fluid Realityは、こうした細かな違いを指先へ伝えるための研究グローブです。各指腹には32個の小さな圧力アクチュエータがあり、ふくらんだり縮んだりします。

物に手が重なったことをVR側で検出すると、指先の必要な場所だけが反応します。指全体がブルッとするよりも、「ここに角がある」「この面は細かな筋がある」と感じるための方法です。

Carnegie Mellon Universityが2024年に公開した研究では、バッテリーとWi-Fi機器を含めて、手と手首に収まる構成が示されています。完成品の販売情報ではなく、研究から生まれた技術として見るのがよさそうです。※2

自分の手で作るなら――LucidGloves

「まずは、グローブがどう動くのかを知りたい」。

そんな人の入口になりそうなのが、LucidVRのLucidGlovesです。ArduinoやESP32などを使い、部品を集めて組み立てるDIYのVRグローブです。OpenGlovesドライバーを通じて、SteamVRへつなげられます。※3

完成品を箱から出して使うものではありません。配線、3Dプリント、ファームウェア、手への調整など、使う人が向き合う部分がたくさんあります。

そのぶん、部品の位置を変えたり、指の動き方を調整したりできます。うまく動かなかった理由を調べることも、プロジェクトの一部です。

LucidGlovesは「安い完成品の代わり」と決めつけない方がよさそうです。自分で作ること、直すこと、仕組みを理解することまで含めて楽しみたい人に向いた選択肢です。

手のひらまで、物を持つ感じへ――HaptX Gloves G1

物を持つときは、指先だけを使うわけではありません。

手のひらに当たる。指の腹が押される。握ったところで、指がそれ以上曲がらなくなる。

HaptX Gloves G1は、こうした接触と抵抗を一緒に扱う業務・研究向けのグローブです。指と手のひらに、空気圧を使う多数の触覚アクチュエータを備えています。公式仕様では、片手あたり135点の触覚アクチュエータと、指ごとの力覚機構が案内されています。※4

圧縮空気を作るAirpackも必要です。グローブだけを手にはめて終わりではありません。

少し大がかりですが、訓練、ロボットの遠隔操作、研究のように、触った場所や握る抵抗を丁寧に扱いたい場面を想定しています。

「重さ」をすべて再現するわけではない点も大切です。公式の説明でも、腕や肩まで使う大きな重さには、上腕側の力覚が別に必要になると案内されています。手のグローブが返せる感覚と、全身で感じる重さは分けて考えましょう。

指を止めるだけでなく、手のひらにも触れる――SenseGlove Nova 2

SenseGlove Nova 2は、親指から薬指までの4本へ、最大20Nの抵抗を加えると案内されているグローブです。※5

仮想の工具や箱を握ったとき、指が空中で閉じ続けないようにする。これが、把持抵抗の役割です。

Nova 2には、手のひらへ圧力を加えるストラップもあります。VRの物が手のひらに当たったとき、「指でつまんだ」だけではない感覚を足します。親指と人差し指、グローブのハブには振動の仕組みもあります。

指の動きはグローブのセンサーで取りますが、VR空間で手全体の位置を知るには、ヘッドセットや環境に応じてコントローラーやトラッカーを追加します。

触覚グローブは、単体で万能に動く魔法の手袋ではありません。VRの中でどこに手があるかを知る仕組みと組み合わせて、初めて使えるようになります。

温かさ・冷たさまで加える――TouchDIVER Pro

TouchDIVER Proは、5本の指と手のひら、合計6か所へ反応を返すグローブです。

ここで特徴になるのが、力覚や質感に加えて、温度も扱うことです。公式ページでは、18〜42℃の温度範囲が示されています。※6

冷たい物を触ったときに、少しひんやりする。温かい物を持ったときに、指先へ熱の手がかりが来る。温度は、物の形を伝えるというより、「これはどんな物か」「どんな場所にいるか」という雰囲気を足す感覚です。

TouchDIVER Proは、PC VRだけでなく、スタンドアロン型ヘッドセットと組み合わせる構成も案内しています。Unity、Unreal Engine、低水準API向けのSDKも用意されており、訓練、仮想試作、遠隔操作などを主な用途として掲げています。

温度があるからといって、触った物を完全に再現できるわけではありません。それでも、冷たさや温かさは、見えている物への納得感を少し変えてくれそうです。

どんな人に、どこから向いている?

最後に、目的から最初の一歩を並べてみます。

こんなことをしてみたい最初に見る例先に確認したいこと
重さや硬さの仕組みを知りたいGrabity研究成果であり、市販品ではないこと
指先の細かな触感を知りたいFluid Reality研究プロトタイプと提供状態
自作・改造まで楽しみたいLucidGloves工具、部品、追跡環境、調整時間
手のひらまで接触を感じたいHaptX Gloves G1Airpack、設置場所、導入支援
工具や部品を握る訓練へ使いたいSenseGlove Nova 2外部トラッキング、対応ヘッドセット、SDK
温度を含むXR体験を作りたいTouchDIVER Pro対応環境、温度の安全設計、SDK

家庭でVRゲームを遊ぶための気軽な手袋を探している人には、今回の市販3製品は少し大がかりに見えるかもしれません。

でも、そこから分かることがあります。

「物をつかむ」には、指の動きだけでは足りないこと。硬さ、接触、振動、温度は、それぞれ別の仕組みで少しずつ足されていること。そして、作りたい体験によって必要なものは変わることです。

VRの手は、まだ現実の手そのものにはなりません。

それでも、指が止まる。手のひらへ当たる。表面が少しザラッとする。冷たさが届く。

小さな手がかりが重なると、目の前の物は、ただの映像より少しだけ「そこにある」ものへ近づいていきます。

主な参照先

※本記事の製品・研究の提供状態、仕様、価格、対応環境は2026年7月26日時点で公開情報を確認しています。研究プロトタイプは市販製品ではなく、販売・提供の状況は変わる場合があります。